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女性との接触が意外と多かった。高齢化社会問題を先取り? 個人主義的な生き方の強さ。


「ハリーとトント」ポスター アート・カーニー
「ハリーとトント [DVD]」


72歳のハリー(アート・カーニー)は、妻に先立たれ3人の子供達も独立しており、マンハッタンのアパートに愛猫トントとともに暮らしていた。しかし、区画整理のためにアパートから強制的に立ち退かざるを得なくなり、長男バート(フィル・ブランス)の家へ移り住むことになるも、そこに馴染むことができず、娘のシャーリー(エレン・バースティン)を尋ねる為、トントを連れてシカゴへ向かう決心をする。トントが原因で飛行機にもバスにも乗ることが出来なくなったが、中古車を買い旅を続けることで、様々な人と出会うことに―。
エレン・バースティン
ポール・マザースキー監督の1974年公開作で、アート・カーニーが映画初主演で第47回「アカデミー主演男優賞」を受賞した作品。ポール・マザースキー監督はハリー役に有名俳優を起用したいと考え、ローレンス・オリヴィエ、既に引退したケイリー・グラントに出演依頼をしたがいずれも断られ、一方プロデューサー側は興行的に失敗する場合も想定してギャラの安いテレビ俳優を希望しており、そこでマザースキーの目に留まったのがたまたま鑑賞した舞台に出ていたアート・カーニーだったとのこと。カーニーは台本を気に入ったものの、72歳のハリーよりも16歳も年下なので断ろうとしたが、マザースキーは第二次大戦で負傷した彼の歩き方がこの役に合ってると思い彼を説得、カーニーは当時56歳で、息子役のラリー・ハグマンと13歳、娘役のエレン・バースティンと14歳しか離れていなかったそうです。
ニューヨークでアパートを立ち退かされた72歳の老人ハリーが、愛猫トントとともにアメリカ大陸を横断するロードムービーです。ハリーが家を追われ、子供たちの世話になれる状況でも、彼らの家庭の都合や空気に無理に合わせず、新しい旅に出るというのは強いなと思います。70代で車を運転し、新しい場所へ行き、様々な世代の人々(ヒッチハイカーの少女や先住民など)と心を通わせるハリーの姿は、冒険心に年齢制限がないことを表しています。旅の過程で、ハリーは家族や友人、そして愛猫トントとの別れを経験します。しかし、彼はその悲しみに押し潰されることなく、思い出を大切にしながら、前を向いて歩き続けます。
今回久しぶりに「NHK-BSプレミアムシネマ」で観直してみて気づいたのは、ハリーの旅の過程で女性との接触が多いことでした。ラスベガスへ向かう車の運転中に女性(実は売春婦)に声を掛けられ、一緒に過ごすことを誘われます(バーバラ・ローズ演じる彼女はハリーに「少し人生を楽しんだら」と優しく働きかけるが、ここはそれだけのエピソードで終わる)。また、シカゴの老人介護施設にかつての恋人を訪ね再会しますが、彼女は現在認知症を患っており、ハリーを別の男と間違えるなど心痛な場面ですが、二人がかつて愛し合ったという背景が切なく描かれます。
映画の終盤、ハリーはカリフォルニアのベニスビーチで、たくさんの猫に餌をやっている女性とベンチで隣り合わせになり、彼女がハリーに話しかけ、一緒に暮らすよう誘い、ハリーも彼女と過ごすことを少し考えたようですが、最終的には別の場所で別の(トントに似た)猫を見つけ、彼らと過ごすことを選びます。
これ以外にも、物語の初期、ヒッチハイカーの少女(メラニー・メイヤー)を車に乗せ、しばらく一緒に行動するシーンがあります。 少女から直接的な性的な誘いではありませんが、彼女が同宿したホテルで胸を露わにし、ハリーが動揺したかのように見えるシーンがあります(15歳くらいなのだが)。結局この娘は、ハリーが再会した元引き籠りの自分の孫と意気投合して、若者たちが共同生活を送るコミューンに行くことになりますが、ハリーは、社会の規範にとらわれない彼らの生き方に対し理解を示します。
旅の過程でこうしたコミューンに出会うというのは、同じくアメリカ大陸横断ロードムービーである「イージー・ライダー」 ('69年/米)で、ピーター・フォンダとデニス・ホッパー演じるヒッピーが、バイクで旅をする中で、ニューメキシコの砂漠にあるヒッピーのコミューンに立ち寄ったのを想起させ、60年代末から70年代のカウンターカルチャーの時代を感じさせます。
一方で、オープニングシーンの都会の老人たちのショットの連続は、老人の社会的疎外を象徴しており、その後もハリーが老朽化したアパートから強制立ち退きに遭うシーンなどが続き、映画そのものも、高齢化社会の問題を先取りするようなものであったとも言えます(高齢化社会の問題は特にわが国において深刻なのだが)。
また、同時に、リア王の話が出てくるように、娘や息子たちの元を転々とするハリーの姿は、領土を娘たちに分け与えた後に裏切られる「リア王」の話の骨格と重なります(結局、「時代的」「今日的」「普遍的」テーマ ということか)。
ただし、シェイクスピアの四大悲劇の1つ「リア王」とは異なり、この映画では老いと自立、家族関係をどちらかと言うと軽妙なトーンで描いています。狂気に陥るリア王とは対照的に、ハリーは旅を通して新たな自由を見出したように見え、改めてハリーの欧米風の個人主義的な生き方の強さを感じました。
チーフ・ダン・ジョージ

ハリーがアメリカ横断の旅をする中で、老インディアンと出会い、心を通わせるエピソードがありますが、この老インディアンを演じたチーフ・ダン・ジョージは、1969年に60歳を超えて俳優デビューし、アーサー・ペン監督の「小さな巨人」('70年/米)でアカデミー賞及びゴールデングローブ賞の助演男優賞にノミネートされ、「ニューヨーク映画批評家協会賞」「全米映画批評家協会賞」の男優賞を受賞しています。
Tonto(Jay Silverheels)/Lone Ranger(Clayton Moore)

また、こちらもインディアン絡みになりますが、劇中でハリーも言っている通り、愛猫トントの名は、モノクロ西部劇として人気を博したTVシリーズで、ウィリアム・テル序曲の主題曲と「ハイ・ヨー、シルバー!」の掛け声も懐かしい「ローン・レンジャー」に出てくるローン・レンジャーの相方のインディアンのトントから取った名前です(主人公ハリーの老インディアンとの交流は偶然によるが、運命的要素もあったということか)。「ローン・レンジャー」は近年ではゴア・ヴァービンスキー監督により「ローン・レンジャー」('13年/米)として映画化され(ローン・レンジャーの映画作品としては5作目にあたる)、アーミー・ハマーがローン・レンジャー、ジョニー・デップがトントを演じましたが、第34回「ゴールデンラズベリー賞 最低前日譚・リメイク・盗作・続編賞」を受賞しています。
「ローン・レンジャー TV版 DVD-BOX」クレイトン・ムーア/ジェイ・シルヴァーヒールス
「ローン・レンジャー」The Lone Ranger(ABC 1949~57)○日本での放映チャネル:KRT(1958~59)フジテレビ(1959~63)
「ハリーとトント」●原題:HARRY AND TONTO●制作年:1974年●制作国:アメリカ●監督・製作:ポール・マザースキー●脚本:ジョシュ・グリーンフェルド/ポール・マザースキー●撮影:マイケル・バトラー●音楽:ビル・コンティ●時間:115分●出演:アート・カーニー/エレン・バースティン/ジェラルディン・フィッツジェラルド/ラリー・ハグマン/アーサー・ハニカット/フィル・ブランス/クリフ・デ・ヤング/チーフ・ダン・ジョージ/バーバラ・ローズ/メラニー・メイヤー●日本公開:1975/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:高田馬場・パール座(79-10-01)(評価:★★★★)●併映:「これからの人生」(モーシェ・ミズラヒ) font>

